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ネガティヴって面白い。「君がいない夜のごはん」穂村弘 著

穂村弘さんという歌人をご存知でしょうか。

現代短歌を代表する歌人の一人である穂村さんは、日常や空想・妄想を切り取ったシュールでクスリと笑えたり、ちょっと切なくなったりする素敵な作品を世に送り出してきました。


そんな穂村さんはエッセイストでもあり、今回はそんなエッセイの中からおすすめの一冊をご紹介しようと思います。



穂村さんのエッセイの魅力。それは自虐的であることです。


「自分なんか」という自尊心の低さ、「これって多分自分だけなんだろうな」という公にできない習慣やマイルール。


不器用な現代人の多くが抱えてあるであろうそんなちょっとネガティブな部分は、見過ごされがちですが実は結構面白い。


この本の中には、そんな些細な心の葛藤が数多く登場します。


本著の中にあるエッセイ「かっこわるいドーナツ」では、友人たちとミスタードーナツに入った時に頼んだD-ポップセット(六種類の小さな球形ドーナッツセット)をおしゃれな女友達に「ダサい」と笑われます。


"知らなかった。おそろしい。そう云われると、なんとなくそんな感じがわかるような気がするところがおそろしい。

食べたいものを選ぶだけなのに、一旦センスという観点の呪縛にかかると、自分自身の素直な味覚に従うことができなくなる。

ファッションにおけるセンス問題の重圧を思い出す。

シャツの裾をズボンに入れているのを人々に笑われて以来、私はそれをひどく恐れるようになった。"ー「かっこわるいドーナツ」より


穂村さんはその日以来、一度もD-ポップを食べていないのだそうです。


えっ。そんなこと気にせずに食べてしまえば良いのに。

そんなポジティブな方々の言葉はナンセンスです。このくよくよした感情がハマった瞬間、私は穂村さんのファンになりました。


自尊心が低いのは悪いことなのでしょうか。

普通気にしないことを気にしてしまうのは、エネルギーを消耗します。社会的に生きにくいかもしれません。

でも、そんなくよくよしている自分が嫌いじゃない。自己主張ができない、流されやすいお人好し。そこにアイデンティティを見いだすことが「ネガティブ人間」にとっての救いになるのかもしれません。


本著のタイトルの元になったであろうエッセイ「妻がいない夜の御飯」では、奥さんが親戚のお葬式に出かけてしまい不在の中、オリジン弁当という夕飯を選択した穂村さんが、おかずを選定していた時の気持ちや、その時に思い出した奥さんの小話なんかをひたすら思い出すものとなっています。



なんのことないお話なのですが、この文章から滲み出る「一人でいるけど平気だ」という強がり、自覚していないかもしれないけど滲み出ている「寂しさ」みたいなものが、とても微笑ましくて切ないのです。


人間の強がって見せない恥ずかしい部分や迷い。

そんなのが垣間見えると、親近感が湧いてその人のことを一気に好きになることってありますよね。


そんな恥ずかしい部分を、「食べ物」をテーマにつらつらと書き出した本作は、実は一人じゃないんだとちょっと前向きになれる一冊です。


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